「世界で最も進んだデジタル社会」とWIRED誌で紹介され、世界中の政府関係者や投資家・起業家が注目する国、エストニア。そんなエストニアの取り組み「e-Estonia」の全体像については先日の記事で紹介させて頂きました。
今回はe-Estoniaの取り組みの一つであるe-Residencyについてご紹介させていただきます。前提となる「e-Estonia」の内容や真の目的についてご存じない方は、まずは前回の記事をご覧頂ければ幸いです。
e-Residencyとは?
エストニア政府が外国人に対して(申請ベースで)付与している権利であり、この権利を得る事でエストニアの「電子居住民」になれるというものです。まずは映像でザックリとイメージを掴んでみましょう。
世界に類を見ない特殊な概念なので混乱される方もいらっしゃると思いますが、少なくとも2018年6月時点では国籍を取得できるわけではありません。稀に「エストニア国民になれる」「エストニア市民になれる」という紹介を見掛けますが、やや誤解を招く印象があります。また、ビザとも異なります。
e-Resident公式サイトを見る限り「全世界154カ国 33,438人から申請があり、電子居住民によって5,033社の法人が設立された」様に読み取れます。情報を取りまとめてから1年ほど経過していますので、現在は更に増えているでしょう。
なお、e-Residencyの権利が認められると、専用のIDカードが付与されます。これについては、私が実際にe-Residencyを申請・受領しましたので別の記事として書きます。
何が出来るようになるのか?
現時点で出来ることとしては主に以下の3つです。申請行為は誰でもできるものの、実質的な対象者としては「主にEU圏でのビジネス展開を見据えている人(及びその関係者)」といった印象です。エストニアはEU加盟国ですから、エストニアに会社を設立することはEUでのビジネス展開に於いて有効な訳です。
- 電子署名:IDカードと専用のソフトウェアを用いることで、電子ファイルに電子署名を入れることができます。日本の法律における「署名捺印」相当の法的証拠能力を有します。(当たり前ですが、エストニアでしか使えません。)
- 銀行口座:エストニアに銀行口座を開設出来るようになります。以前は比較的容易に法人口座の開設ができたそうですが、2017年以降は審査が厳しくなっているとのこと。調べてみたところフィンランドのHolvi for e-ResidencyというFinTechサービスを使うとオンラインで口座を開設することができるようです。
- 法人登記:以前の記事でもご紹介しましたが、オンラインでの法人登記を行うことが出来るようになります。
エストニアでの法人設立のメリット
大きく分けて以下の3点が挙げられます。他にもたくさんメリットはあると考えられますが、特徴的なものをピックアップしてみました。
- コスト(時間)観点:先に述べたように、オンラインで短時間で法人登記を行う事ができます。日本人の方で実際に法人を設立された方が手順を纏めていらっしゃった記事がありましたので、参考までに掲載させていただきます(こちら)。なんだかブログを書いたり会員制サイトに登録するかのような手順で出来てしまいそうです。
- コスト(税金)観点:詳しいことは専門家の方に譲りますが、エストニアでは配当時に法人税が課される仕組みになっている為、再投資や内部留保する限りは法人税が課されないとのこと。私が調べた範囲内ではこちらのサイト(ESTLANDING様)がわかりやすかったです。
- テクノロジー市場観点:上記の施策による結果とも言えますが、エストニアはヨーロッパにおけるシリコンバレーと喩えられるほどテック系の企業が多く集結しています。
エストニアにおけるスタートアップ企業については別途記事にまとめようと考えておりますが、e-Estonia公式サイトによると、2017年6月時点における人口あたりのスタートアップ企業数でヨーロッパ第3位だそうです。また、エストニア最大のテックカンファレンス「Latitude59」は世界各国からの注目が年々増しています。
また、以下の映像の様に地政学上のリスクがきっかけでエストニアに法人を設立する人もいるようです。
Global Entrepreneurs | Why join e-Residency?
e-Residencyは外交政策の一環という側面も?
ご紹介した内容を踏まえると、e-Residencyとは我々外国人にとって「エストニアでのビジネス参画のための権利」と言い換えることも出来るでしょう。今後、一般の方が恩恵を受けられる様な内容が加わるかもしれませんが、現時点ではビジネスをする人向けの施策といった意味合いが強い印象です。
視点を変えてみると、e-Residencyによりエストニアは経済発展を期待できるだけでなく、世界中の人々に対してe-Estoniaのビジョン(領土に依存しない電子国家。詳しくは前回の記事を参照。)を伝えることを通して謂わば「支持者」を集めることができます。
これはエストニアに対して圧力を掛けてくる国や勢力が出てきた際に、それらに対抗する上での「仲間」のような存在になる訳ですから、実は外交面に於いても意義のある施策なのではと考えております。このあたりは冒頭ご紹介した映像のナレーションにある "No business should be bound by physical borders" というメッセージからも感じた方がいらっしゃるのではないでしょうか。
エストニアの電子国家戦略を学ぶならこの本!
最後にエストニアの電子国家戦略について学ぶのにオススメの書籍を2冊ほど紹介します。私は二冊とも所有していますが、まずはどちらか一冊で十分です。
未来型国家エストニアの挑戦 電子政府がひらく世界 (NextPublishing)
- 作者: ラウルアリキヴィ,前田陽二
- 出版社/メーカー: インプレスR&D
- 発売日: 2016/01/29
- メディア: Kindle版
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ブロックチェーン、AIで先を行くエストニアで見つけた つまらなくない未来
- 作者: 小島健志,孫泰蔵
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2018/12/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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いよいよ次回、e-Residencyの実際の申請手順をご紹介します!